
2025年にはWindowsとiPhoneなどのOSが次々とバージョンアップされました。これらの動向は目覚ましい技術革新が続くAI分野の進化がベースにあります。補聴器においては耳かけ型(RICタイプ)、耳あな型があり、各メーカーはこれまでハードである機器自体の最小化に切磋琢磨してきましたが、それももう限界に近づいている感があります。かたやAIの活用という点では最新のOSが進化を続けていて、現在ではそれらに対応できる機種をお勧めすることも、私たち認定補聴器技能者の大切な役割になってきたなと感じています。
今回のブログでは補聴器製造の世界的な老舗メーカー、来年には80周年を迎えるソノヴァグループの補聴器ブランド「フォナック」の最新シリーズ「インフィニオ」から、最上位機種である耳かけ型「フォナック オーデオ インフィニオ スフィア」、耳あな型の「フォナック バートI-R」の2機種についてお話を伺うべく、私、福澤が東京・品川区のソノヴァ・ジャパン株式会社を訪れました。本社スイスで長年精密な医療機器を扱うクラフトマンシップを基にし、今ではデジタル技術の分野にもその精神を生かしているソノヴァグループ。ソノヴァ・ジャパンの眞鍋幸社長(以下、眞鍋社長)にこの2機種について、どれだけ音質やフィッティングなどの諸機能を向上させたのかを中心にお話を伺いました。
二つのチップを搭載した革新的なモデル


福澤:実は、私は「フォナック」の補聴器は「パラダイス(Paradise)」を個人的に常用してきていまして(笑)。昨年には「インフィニオ(Infinio)」シリーズの最上位機種となる「フォナック オーデオ インフィニオ スフィア(以下スフィア)」が販売開始されましたので、本日はブログでも紹介しようとやってまいりました。
私なりの理解ですが、インフィニオシリーズはパソコンに例えるならOSのインフォニオ というプラットフォームであり、ルミティ、パラダイスと、およそ二年おきぐらいにベースとなるプラットフォームを変えて進化させてこられて、その最新のプラットフォームがインフィニオというわけですよね。
眞鍋社長:はい、おっしゃる通りでして、また長年のご愛用、ありがとうございます。「スフィア」に関しましては2024年8月からアメリカで販売開始したところたちまち大好評となったこともあり、一時生産が追い付かないのではとの危惧もありましたが、その後の生産体制強化を後ろ盾に、日本では2025年1月に販売を開始しました。さらに11月からはOSをバージョンアップさせた「インフィニオ スフィア ウルトラ」として販売しています。
最上位機種としての大きな特徴としましては、「ERA™」と「DEEPSONIC™」の二つの半導体チップが入っていることが挙げられます。ERAは補聴器を駆動させるメインチップで、今回は音質と持続性をかなりアップさせています。そこに加えてもう一つ、AIを使って「ことば」と「雑音」を分離するサウンドプロセッシング専用チップDEEPSONIC、この二つを搭載したことで、これまでにない、全方位からのクリアな会話を聞くことができる製品に仕上げております。
福澤:私もお借りしたデモ器を付けてスタッフと居酒屋さんに繰り出して、その実感値を知ろうと試してみました。居酒屋さんはさまざまな雑音に満ちた空間でもありますので、実際に聞き取り具合はどうなのかというね(笑)。個人的な感想ですが、やはりパラダイスよりルミティの方が良くなっていたし、「スフィア」はOSの進化も含めてそれよりもさらに良くなったなと感じました。
眞鍋社長:ご評価いただきありがとうございます。今までですと、全体的に音を下げて雑音を軽減させるというのが補聴器の騒音に対する仕組みでしたが、「スフィア」は、騒がしさの中で話し声を聞く時に、背景の騒音と会話を完全に分離させて、必要な会話だけを浮き上がらせて聞かせるディープラーニングAI(DNNチップ/ディープニューラルネットワーク)の仕組みを用いていますので、聞いている時に他のノイズは低くなっても必要な会話はけっして低くならず、言葉だけが浮かび上がってくるような状況を実現しました。
また、構造としてもチップを二つ補聴器の中に収めるという挑戦を行い、これはおそらく補聴器業界にとっても革新的な設計だと自負していますが、ノイズに対する AI の使い方もまた新しい試みでして、雑音と必要な会話を明確に切り分けることを実現した、非常に画期的なモデルになったと思っています。
福澤:確かに二つのチップを入れる技術力というのは素晴らしいですね。そうしたハード面はもちろんなのですが、ソフトもどんどん進化させているのがフォナックのすごいところです。オートセンスOS(※1)のバージョンでは、パラダイスの4.0、ルミティが5.0に。「スフィア」では、2025年1月リリース当初は6.0でしたが、11月のウルトラへのバージョンアップでは7.0となりました。きっと次には8.0に進化されるのだろうと思っていますけれど、ハードだけの進化だけでなく、ソフトであるOSの進化も同時に想定しながら開発されているのがさすがだと思っていますよ。
眞鍋社長:ありがとうございます。ソノヴァは半導体チップを自前で設計し、製造している会社ですが、それがソフト面の開発力にも活かされており、この点は私たちの強みの一つと誇りに感じています。
(※1)オートセンスOS(自動環境適応プログラム)/それぞれの状況下での音の聞こえを分析し、データベースで振り分け、その場に最もフィットした音の傾向に自動調整する機能


新技術「ライトフィットモデリング」
福澤:国内での発売前にはモニタリングを行われたそうですね。お客様の反応はどうでしたか?
眞鍋社長:ええ、数カ月かけて実施し、たくさんの感動的な感想をいただくことができました。例えば食品スーパーなんかでよく曲が流れていますよね。その曲中には歌詞でメッセージが伝えられていますが、「スフィア」を着けてみて「初めてその歌詞の内容が明瞭に聞こえてきた」という方がいました。
ほかにも印象的だったのは、国民的ドラマのオープニング曲で、これまでオーケストラの楽器まではよく聞こえていなかったのが、「ああ、この音はオーボエだったんだ」と気づいたという感想もいただきました。聞こえることが、豊かで幸せな経験に繋がる、それを強く感じた機会になりました。
福澤:居酒屋さんなどでは目の前だけでなくて、横の人の言葉かどれだけ聞けるかがとても大事です。ずっと「フォナック」を使っているので、今回の「スフィア」はどうかと試しましたが、聞こえかたのバージョンアップもされているなと感じました。
眞鍋社長:ありがとうございます。騒音下になりますと、今までの補聴器は指向性というのが基本的に働きまして、ピンポイントで前方だけを集中するようにして、なるべく周りの騒音を抑えていたんです。そこで「スフィア」では360度全方位からも聞こえますが、AI を使ったサウンドプロセッシング専用チップDEEPSONICの働きにより、言葉と雑音を完全に切り離すことに成功していますので、指向性を使わなくてもいいという機器となっています。特に前方180度以上については会話を増幅させる機能がうまく働いていると思います。
福澤:「スフィア」はRICタイプ(耳かけ型)ですが、耳あな型の「フォナック インフィニオ バートI-R(以下バートI-R)」についてもお話を伺いたいと思います。販売店向けのダミーを前に見せていただいたモックアップ時点では、少し大きいなと思ったのですが、いざ製品化されてみると実機はそれよりも小さくて、この大きさならお客様にとっても、最近のイヤホンのように耳にもすっぽりと収まるので、サイズ感も十分だろうなと感じました。
眞鍋社長:世界の潮流ではRICタイプが主流ですが、日本における現在の40代までの世代を見ていると、携帯電話をBluetooth™でつなげて、イヤホンで会話されている方がとても多いですよね。この方たちの10年20年後を考えた時、耳あな型のほうがスムーズに、親和性高く補聴器を手に取っていただけるのではないかという期待も、今回の「バートI-R」には込められています。一番の特徴は、フォナック初の充電式の耳あな型補聴器であることです。
もう一つの特徴は、「ライトフィット モデリング」という新しい技術を採用していること。その方の聞こえづらさの度合い合わせてどのようなフィッティングがベストなのかというデータを全てパターン化し、AI 学習を繰り返しながら精度を高めてきた技術が、今回この「バートI-R」に活かされた形になっています。直近では9割以上のご注文にライトフィット モデリングを選んでいただいています。特段、あれこれ考えなくても、耳の形状とかベントのサイズ、レシーバーなどまで全て自動的に一番良いものを選んでくれるという点で、販売店の皆さまに便利に使っていただけているのは非常にうれしいことですね。
また、オーダーメイドの補聴器ですので、フィット感だけでなく音に関してもオーダーメイドで聞いていただけるのも「バートI-R」ならではの特徴です。「バイオメトリックキャリブレーション」という機能を用いて、耳の解剖学的構造に対応した千六百箇所の計測を行うのですが、その方が持っている耳介(耳たぶ)の形状とか音響特性の計測を行い、そのデータ情報を補聴器にインプットして使っていただくことで、データ的には指向性指数が2デシベル改善するとされています。


フィット感と音質をオーダーメイドで作る
福澤:音までパーソナルにカスタマイズできるのは、まさにオーダーメイドならでは。しかも音の指向性指数が2デシベル違うと、言葉の明瞭度では1デシベルで5%改善ですから、最大10%の改善ということですね。私どもの店頭でお客様の耳の形のデータを取れば、それで計測できるのでしょうか?
眞鍋社長:ええ、そうです。当社ではいただいたデータを基に形も音もベストフィッティングに整えて出荷します。お客様の耳の形や専用の音の作りに寄り添ってこそのオーダーメイド補聴器である、という点においても、「バートI-R」はソフト面の開発にも非常に力を入れた製品として自信を持って送り出すことができました。
福澤:それと装用するお客様からの利便性という点では、電池式ではなく充電式になったことも大きいと思います。やはり日常的にイヤホンを着けて過ごしている方は、ちょっと耳の聞こえが悪くなったから、自分ならこっちかと選ぶことはあると思いますし、耳型にベストフィットしていますので、落ちにくいという利点もありますよね。
眞鍋社長:「バートI-R」の充電方式は磁石による接触式で、3時間でフル充電できますので、使い勝手はすごく向上したかと思います。ちなみに、私の娘は仕事や家で一日中イヤホンを着けたまま過ごす日もあり、たまに外すことを忘れてお風呂に入ってしまうことも(笑)。彼女のようにイヤホンに慣れた世代には、耳あな型で、そして充電式であるということは、今後さらに補聴器の重要な条件になっていく気がしています。
先ほどの「スフィア」の話に戻りますが、インフィニオシリーズの耳掛け型はすべてウォーターブロックの設計となっていますので、防水性・防汗性も持たせていると店頭でお客様に伝えていただければうれしいです(笑)。

OSのバージョンアップも考慮
福澤:さて、私ども販売店の立場として、「スフィア」や「バートI-R」をどのようなお客様に勧めたいかですが、やはりまずはアクティブシニアと呼ばれる方々ですかね。耳の聞こえこそ加齢などで衰えて来たけれど、まだまだ元気に、山登りや旅行などを楽しみたいというお客様です。そしてビジネスにおいても騒音下での仕事も多い交通や建設などのインフラ関係で働いていて、しっかりとした「聞こえ」を求められる方。とはいえ音質自体は好みですから、それはお客様次第ですけれど、他社製品も含めて機能面の比較、Bluetoothなどコネクティブな面の汎用性、充電などの使い勝手の良さ…、そうしたことを目の前のお一人ずつにできるだけわかりやすくご説明し、それぞれを試着してもらった後に決めていただこうかと。今回お話を伺った二つのモデルは「フォナック」の最新機種ですから、価格面も加味しながらですかね。
眞鍋社長:おっしゃる通り、「スフィア」は片耳の価格で71万円ですから、高い投資なのかどうか判断されるのはお客様次第だと思います。インフォニオシリーズでは20万円と少しくらいからの製品もご用意していますし、「フォナック」の別のシリーズですと10万円を少し超える製品もあります。私どもは補聴器を、エンドユーザー様の「聞こえ」に寄り添う、ライフパートナーだと考え、それぞれの方が求められる機能に合わせて、価格帯も幅広く展開しています。
福澤:さらに最近ではOSの進化についても、ある程度は想定してお勧めしなければならないと感じています。パソコンやスマホもそうですが、5年前の機種はバージョンアップの対象外となるケースもありますのでね。
また、店頭で接客している私どもの感覚値では、初めて補聴器を購入される方と買い替えの方では説明の仕方も違うのですが、買い替えのお客様ですと、「(前機種では)こんなところは満足していたけれど、もうすこしあそこを」みたいなニーズで来店される。本日お話を伺ったことで、そんな買い替えニーズの方にはより積極的に勧めていこうと思いました。
もう一つ、「スフィア」を試着した私個人の感想を申しますと、電話で話している時のノイズキャンセリングの機能まで上がっているのかなと感じました。補聴器はマイク機能でどうしても周囲の雑音、例えば鉄道駅のプラットフォームで電話の着信があった際に、どうしてもこちらの声が相手に聞こえづらくなるものです。しかしスフィアを着けている間に電話で話した先方からは、「あれ今、ご自宅ですか?」みたいなことを言われたのです。雑音が入らずにけっこう静かなところにいると思われたのでしょうかね。
眞鍋社長: そうでしたか、今度テストをして先方の聞こえ方についても調べてみますが、おそらく言葉だけを浮き上がらせる機能がなにかしら働いた結果だと思いますね。
福澤:それはまあ個人の感想でしたが、ともあれ、私たち補聴器販売員は美容室の理容師や、一面ではかかりつけ医みたいな、そんな役割も担っています。聞こえにくさに関しては年齢と共に進行していきますので、常にその時の体調や聴力の状況の変化に合わせてメンテナンスしつつ、その機器以上に使用されるご本人とのフィッティング具合をベストに調整し続けていくのが認定補聴器技能者である私どもの役割です。
眞鍋社長:ええ、髪の毛も放置すれば野放図に伸び放題になりますしね。私どもメーカーが製品を世の中に出した後、しっかりとその機器の良さを生かし切っていただくには、販売店さんのお力が不可欠です。当社の理念である「ゆたかな聞こえ、しあわせな暮らし。」が実現できるよう、これからも販売店さんとご一緒にタッグを組んでいきたいと考えていますので、引き続きよろしくお願いいたします。