世界に比べて遅れを取る日本の補聴器普及への取り組み

日本の補聴器普及率は15.2%と伸び悩む

高齢化が進む日本では、聞こえのサポートはもちろん、認知機能の維持など様々な側面で補聴器が重要な役割を果たしています。しかし、その普及率や補助の満足度については、欧州に遅れを取っているのが現状です。今回は、そうした世界と日本の補聴器に対する取り組みの差を見ていきましょう。

日本に限らず、難聴への取り組みや難聴者への支援は、いまや世界的に大きな課題とされています。世界保健機関(WHO)は、2021年に難聴者の42%が60歳以上であることを報告するとともに、聞こえの問題に悩む人が増加傾向にあり、2050年には世界の4人に1人が難聴となる可能性についても警告を発しました。

世界的に深刻化しつつある難聴問題ですが、その有効な治療・対策の一つが補聴器です。難聴初期段階での補聴器使用は“聞こえ”を助けるのみならず、認知機能維持を考えるうえでも役立つことが研究報告されています。

では、実際に他国の補聴器所有率はどのようになっているのでしょうか。難聴自己申告者を対象とした2022年の大規模調査、Euro Trakによると、デンマークの55.4%を筆頭にイギリス、ドイツ、フランスの各国も40%を超えていたのです。また、韓国も40%には届かないものの、36.6%となっており、普及が進んでいるといえるでしょう。

一体、この高い普及率を支えている要因は何なのか。その一因として考えられるのが公的補助の充実です。補聴器購入費用の補助について、欧州各国の満足度は各国70%を超えており、韓国も57%となっています。

それでは、肝心の日本はどうなっているのでしょうか。

冒頭でも申し上げたように、日本の普及率や補助の満足度は低くなっています。普及率は15.2%、補助への満足度は50%といずれも低い数値となっており、そもそも助成を受けている人が8%しかいません。これは上記の国の中で最も高いドイツが94%、日本の次に低い韓国が59%と聞けば、如何に低いかがお分かりになるでしょう。

補聴器への公的補助のハードルの高さが普及を阻害

日本において、補聴器購入費用の助成を行う際に用いられるのが、障害者総合支援法に基づく補装具費請求制度です。前述の結果から見ても分かるように、他国と比べて十分とはいえない内容になっています。

特に問題なのが助成対象の厳しさで、助成を受けるには聴覚障害者と認定され、身体障碍者手帳を持っていることが必要です。日本において聴覚障害と認定される基準は平均聴力レベルが両耳とも70dB以上、もしくは片耳が90dB以上でもう片方の耳が50dB以上となります。また、認定基準に当てはまる人の中でも、その聴覚障害の程度によって高度難聴用、重度難聴用と支給内容が変わる他、それらについて回る、原則1割の負担額が所得によっても変動します。

つまり、軽度、中等度の難聴で補助を受けることは国の制度では難しいのですが、これは他国と比べると非常に厳しい基準といえるでしょう。デンマーク、イギリス、ドイツ、フランスでは、基本的に軽度難聴以上から保証が与えられるうえ、イギリスとデンマークに至っては両耳とも100%の金額でその補助が受けられます。

日本においても自治体によっては軽度、中等度で助成を受けることが可能な場合もありますが、国の制度として整っているわけではありません。EUでは2021年に発行されたWHOのWorld Repot on Hearingに基づき、不当な個人負担とならないように軽度難聴からの助成を推奨していることを思えば、非常に大きな差があります。

また、日本においては助成のほとんどが片耳である、両耳助成の場合、職業または教育上必要と認められた場合のみとなっています。今後、補聴器普及のためには、“聞こえ”に悩みを抱える方への支援に改善の余地が残されているといえるでしょう。