デフサッカー日本代表 岡田拓也選手 特別インタビュー:音のないサッカーとアスリートの補聴器ケアについて

「アスリートはトレーニングで汗をかくので、補聴器がすっごく壊れやすい。だから、こうやって丁寧にメンテンスをしてもらえるのは本当に助かっているんです。」

愛用の補聴器に触れてそう語るのは、日本デフサッカー界のエース、岡田拓也選手です。

デフサッカーとは、聴覚に障がいを持つ選手で行うサッカーのことで、デフ(deaf)には聞こえない人、聞こえにくい人という意味があります。岡田選手は、デフサッカーの日本代表選手として昨年秋の第4回世界ろう者サッカー選手権大会(デフサッカーワールドカップ)に出場。7得点を挙げて大会MVPにも選ばれるなど、過去最高となる準優勝の原動力として活躍しました。

そこで、今回のブログは、日本のデフサッカー界を牽引する岡田選手に、デフサッカーの魅力とアスリート目線での補聴器について語っていただく特別編となっています。

まずはデフサッカーについて教えてください。

デフサッカーは、「音のないサッカー」という愛称でも呼ばれるスポーツで、参加する聴覚障がいの選手たちは、補聴器も装着せずにプレーするのが特徴です。逆に言えば、それ以外のルールは通常のサッカーとほとんど変わりません。少し変わった光景をあげるなら、レフェリーが笛の代わりに旗を振ることくらいで、こうした点は音のない世界ならではだと思います。

ルールよりも大きな違いが出るのは、実際にプレーした際の感覚です。例えば、僕はFWで出場することが多いのですが、補聴器を使用してのプレーならば、背後から迫る相手の足音によって距離やマークの人数を感じ取れます。けれど、補聴器を使わないデフサッカーでは、視覚で確認するしかないため、何度も背後を振り返って状況判断することが欠かせません。MFのように、常に盤面を見渡すポジションならまだしも、先陣を切って走り、相手のDFを振り切っていくFWでは大きな違いとなります。

また、音がないということはコミュニケーション手段も限られるので、アイコンタクトとボディランゲージが基本となり、インターバルで手話を使うこととなります。一瞬で味方の指示を読み取り、的確なパスやポジション取りを行うことが通常のサッカー以上に求められるといえますね。

このように聞くと、ルールは同じでもパフォーマンスを上げるための工夫がいくつも求められる印象ですね。

そうですね。音がない分、それを補うために様々な工夫や、動き、気配りが求められる側面は確かにあります。ただ、僕の場合は、デフサッカーをやってきたからこそ、集中して他のプレイヤーのことを観察する力が備わったと考えているんです。

例えば、ひと言で聴覚障がい者と言っても、補聴器を着ければ聞こえる選手と全く聞こえない選手がいるように、その程度は人によりけりです。そこの差で生じるコミュニケーションの齟齬は、時として相手に付け入る隙を与えたり、試合の進行を遅らせたりする原因になりかねません。だから僕たちは、相手の顔をしっかり見て、目線や表情から多くの意志を読み取ろうとするのが常になっているんです。

そして、相手のことをよく観察することは、補聴器を着けて健常者とプレーする際に相手の考えや狙いを見抜くことにつながっています。また、デフサッカーの仲間と組んで健常者と相対すれば、ちょっとした手話やアイコンタクト、手の動きで多くのことを伝えられるので、相手の虚をついたプレーも可能になります。

ちょっとした暗号みたいで、非常に格好いいですね。

ありがとうございます(笑)。でも、先ほどもいったように、こうした観察の源になるのは相手のことを思いやり、気づこうとする心遣いにあると思っています。デフサッカーをやってきたおかげで、より円滑なコミュニケーションが普段からとれるようになったのではないでしょうか。

デフサッカーから多くのものを得られた岡田選手ですが、逆に普通のサッカーから得られたものはなんでしょうか。

メンタルですね。僕はJリーグ入りを目指しているアヴェントゥーラ川口に在籍していた経験があり、当時のチームには元プロ選手もいたのですが、メンタルの保ち方や考え方で随分と多くのことを学ばせてもらいました。

特に、以前なら不利な状況に陥った際は、その逆境を跳ね返そうと意気込むことがありましたが、今は常に冷静でいること、平常心を失わないことを第一に考えています。自分で言うのもなんですが、アヴェントゥーラや大学の4年間など、さまざまな経験をしてきたことによって、自分のメンタルは随分完成されてきたのではないでしょうか。昔は、ガラスのハートだったんですけどね(笑)。

ワールドカップ準優勝の陰には、そうしたメンタルトレーニングの影響もあったのですね。そうなると、次の大きな大会となる2025年デフリンピックに向けては、心身ともに更なるトレーニングが必要になりそうですね。

そうですね。次は、僕たちも追われる立場になるとともに、優勝を取りに行きたい。日本はホスト国なので出場はできるのですが、今度こそはというか、当然ながら優勝を目指しています。

そのためのトレーニングにも余念がなく、フィジカルは胸や背中などの体幹や下半身を中心に、トレーナーさんとメニューを相談しながら鍛えています。さらに大宮にある施設で、高地トレーニングも積み重ねてきました。そのうえで、技術とチームプレーを欠かすことなく、週5日、いっぱいトレーニングをしています。

ただ、トレーニングをすることの弊害といいますか、悩みもあります。それは、ハードなトレーニングが補聴器に負担を掛けてしまうことです。

試合中は補聴器を着けないデフサッカーでも、トレーニング中は補聴器と共に過ごされるのですね。

はい、そうでないと色々と不便ですので。単純にコミュニケーションがとりやすいのもそうですし、今私が使っているオーティコンの「Xceed Play2BTEUP」という機種は指向性に優れている機種なので、周囲の状況が明確に把握できて安全にトレーニングができます。

特に、以前は片耳だけの使用だったのを両耳に切り替えたおかげで、全方向に対してアンテナが働くようになった影響は大きいですね。デフサッカーではない通常のサッカーの時には、周囲を把握できることで随分とプレーの質が変わったように思います。

また、こうした指向性による安全性の強化や快適さというのは、サッカーのプレー中に限らず、日常生活でも大いに役立っています。正直、なんでもっと早く両耳にしなかったんだろうと思うくらいです(笑)。

とても気に入っている機種なので周囲の選手と補聴器について話すことがあれば、同じ機種を薦めたり、互いに感想を言い合ったりしているほどです。個人的に、ふいに話しかけられた際の言葉も、以前に比べて随分と明瞭に聞き取れるようになったこと。それから、Bluetooth®接続でYoutubeやNetflixといった動画をノイズキャンセリングして視聴できる点は絶対伝えるようにしています。

ただ、先ほども言ったように、どうしても激しいトレーニング中も装着していることで、汗をかき、補聴器に負担を掛けてしまうのがネックではあります。便利なんですが、それゆえに外せないという悩みです。

Xceed Play2BTEUPは日常生活防水機能にも優れている補聴器ですが、それでも負担がかかってしまうのですね。

そうなんです。実際、この機種の日常生活防水機能は通常の生活ならば十二分な性能を持っていると思いますし、ヘアバンドを合わせて使うことで以前の機種よりも壊れにくくはなりました。ただ、それでも数カ月単位でこうしてドリーム補聴器さんにメンテナンスに出している状態です。正直、将来的には自分でアスリート用の補聴器開発に携わりたいと思うくらいです(苦笑)。

その一方で、この補聴器にして約3年。何度も何度も修理をしては、きちんと復活して戻ってくるのは、ドリーム補聴器さんのメンテナンスがあってこそで、おかげで沢山トレーニングができているともいえます(笑)。そもそも、今使っている「Xceed Play2BTEUP」自体がドリーム補聴器さんの紹介なので、その点も含めて非常にお世話になっています。

となると、これからの活躍に欠かせないトレーニング。その下支えとなる補聴器と、そのケアの重要性がますます高まりますね。

はい。先述のようにデフサッカーは2025年の11月にデフリンピックという大きな大会が、また今年の10月にアジア大会が控えています。

先のワールドカップで準優勝に輝いたことに加え、ユニフォームもJFAという、いわゆる通常の日本代表と同じユニフォームになったこのタイミングで戦うということは、自分にとっても貴重な機会となります。耳が聞こえない方やサッカーをされている方はもちろん、是非いろいろな方に応援していただき、デフサッカーを知っていただく機会となれば嬉しいです。

【プロフィール】

岡田 拓也(おかだ・たくや)

1996年埼玉県生まれ。越谷フットボールクラブ所属。ポジションはFW、MF。

双子の兄である岡田侑也(ゆうや)選手とともに、大学在学時からデフサッカー日本代表に選出され、主軸として活躍。昨年開催されたW杯では、大会通算で7得点をあげるなど世界選手権で初のメダル獲得となった男子日本代表チームの主軸として活躍を見せ、MVPにも選出された。